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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11881号 判決 2000年8月30日

《住所略》

原告

久保郁代

右訴訟代理人弁護士

堀越孝

《住所略》

被告

丹羽宇一郎

右訴訟代理人弁護士

大嶋芳樹

吉岡寛

大阪市中央区久太郎町4丁目1番3号

被告補助参加人

伊藤忠商事株式会社

右代表者代表取締役

白井哲三郎

右訴訟代理人弁護士

野村晋右

寺崎大介

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、被告補助参加人に対し、金2億2500万円及びこれに対する平成11年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告補助参加人の株主である原告が、「被告は、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、エヌ・ティ・ティ九州パーソナル通信網株式会社(以下『NTT九州パーソナル』という。)がその営業全部をエヌ・ティ・ティ九州移動通信網株式会社(以下『NTT九州ドコモ』という。)に譲渡して解散するに際し、被告補助参加人が保有していたNTT九州パーソナルの株式4500株の価値を失わせないため、日本電信電話株式会社(以下『NTT』という。)、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、右株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っていたのにもかかわらず、右義務を怠り、これによって、右株式を無価値に帰せしめ、被告補助参加人に右株式の額面価額合計2億2500万円相当の損害を生じさせた」と主張して、被告に対し、商法267条、254条ノ3、266条1項5号(254条3項、民法644条)に基づき、被告補助参加人に右損害を賠償するように求めた株主代表訴訟である。

一  当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(枝番号を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

1  当事者等

(一) 原告は、被告補助参加人に対して被告の責任を追及する訴えの提起を請求した日(平成11年8月25日)の6か月前から引き続き被告補助参加人の株式を保有する株主である。

(二) 被告は、被告補助参加人の代表取締役兼取締役(社長)である。

(三) 被告補助参加人は、昭和24年12月1日に設立された、繊維原料及び繊維製品等の物品に関する貿易業、売買業、仲立業、代理業、製造業及び加工業等を目的とする株式会社で、資本の額は1747億1181万3232円である(弁論の全趣旨)。

2  NTT九州パーソナルのPHS事業等

(一) NTT九州パーソナルは、平成6年10月14日に設立された、電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とし、簡易型携帯電話(PHS)サービス及び簡易型携帯電話機の販売を主要な営業種目とする株式会社で、資本の額は25億円、発行済株式総数は5万株(額面株式1株の金額は5万円)であり、同社の株式は、別紙株主一覧表記載のとおり、NTT九州ドコモが2万4000株(出資比率48パーセント)、NTTが1万4000株(出資比率28パーセント)、被告補助参加人が4500株(出資比率9パーセント)(以下「本件株式」という。)、ケーブル・アンド・ワイヤレス・ピー・エル・シー(以下「C&W」という。)が2500株(出資比率5パーセント)、丸紅株式会社(以下「丸紅」という。)が1500株(出資比率3パーセント)、その他の企業32社が合計3500株(出資比率合計7パーセント)、それぞれ保有していた。

なお、同社の定款には、同社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨規定されていた(乙一、二、丙一、二)。

(二) NTT及びNTT九州ドコモは、平成10年11月5日ころ、別紙株主一覧表記載のとおり、被告補助参加人、丸紅及び岩崎産業株式会社を除く株主の保有する右株式を、額面価額で買い取った。NTT九州パーソナルは、右買取りに先立ち、同年10月13日開催の第39回取締役会において、右譲渡を承認する旨の決議を行った(甲八、一〇ないし一二、一四、一六、一八、一九、乙五ないし七、丙一、証人大川博通)。

(三) NTT九州パーソナルは、平成10年6月22日開催の第4回定時株主総会において、その営業全部をNTT九州ドコモに譲渡する(以下「本件営業譲渡」という。)旨決議し、同年12月1日開催の臨時株主総会において、解散する(以下「本件解散」という。)旨決議し、同月9日右解散の登記をした(乙一)。被告補助参加人は、右各株主総会に株主として出席し、右各決議に賛成した。

(四) NTT九州パーソナルは、清算手続を行い、平成11年3月19日清算を結了し、同日その旨登記した(乙一)。右清算の結果、株主に分配すべき残余財産は存在せず、被告補助参加人は、NTT九州パーソナルに対する出資相当額(2億2500万円)を回収することができなかった。

3  提訴請求

原告は、被告補助参加人(監査役大川博通)に対し、平成11年8月25日到着の書面で、被告の責任を追及する損害賠償の訴えを提起するよう請求したが、被告補助参加人は、右請求日から30日を経過するも、右訴えを提起しなかった。

二  争点

本件営業譲渡及び解散に当たり、被告は、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、被告補助参加人が保有していたNTT九州パーソナルの株式4500株(本件株式)(額面価額合計2億2500万円)の価値を失わせないために、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、NTT九州パーソナルがPHS事業から撤退するという方針につき時期尚早であると異議を唱えて反対したり、PHS事業をNTT九州ドコモに承継させるのであれば合併によるべきであると主張したり、株主平等原則違反の事実を指摘するなどして、本件株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っており、被告がそのような積極的な働きかけを行わなかったことが、被告補助参加人の取締役としての善管注意義務、忠実義務を懈怠したことになるか。

(原告の主張)

被告が、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、本件株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったため、被告補助参加人は、本件株式の額面相当額2億2500万円の損害を受けたものである。

1 NTT九州パーソナルの株式を買い取ったのはNTT及びNTT九州ドコモであったが、右買取りの申出先を選別したのはNTT九州パーソナルであり、同社は右申出先から被告補助参加人を意図的に除外したのであるから、NTT九州パーソナルの右行為は、明らかに株主平等原則に違反する。

2(一) 本件営業譲渡及び解散は、NTT九州パーソナルの大株主であったNTT及びNTT九州ドコモが、NTT九州パーソナルに対して有していた多額の貸付金を損金処理しようと、自らの利益を図るために、同社に行わせたものである。

(二) NTT及びNTT九州ドコモが、本件営業譲渡及び解散に当たって、被告補助参加人等を除く大部分の株主から、実質的に無価値であるNTT九州パーソナルの株式を額面価額で買い取ったのは、NTT九州パーソナルがPHS事業から撤退し、本件営業譲渡及び解散を行うという方針の実行を急いだNTT及びNTT九州ドコモが、株主に対するいわば口封じのために行ったものである。NTTがC&Wの保有するNTT九州パーソナルの株式を買い取ったのも、C&WがNTTの右方針は時期尚早であると異議を唱えたことから、そのような意見がNTT九州パーソナルの他の少数株主に飛び火して右方針の実行が遅れることを恐れ、いわばC&Wの口封じのために行ったものである。

(三) 被告補助参加人、丸紅及びC&Wは、NTT九州パーソナルに資本参加するに当たり、NTT及びNTT九州ドコモとの間で、基本協定を締結して基本協定書(丙二)を交わし(以下「本件基本協定」という。)、NTT九州パーソナルが事業を廃止しようとする場合には、同社の損失及び一切の債務について、役員の派遣状況、出資比率等を考慮し、その負担方法について誠意をもって協議し、対処する旨約しており、本件基本協定の当事会社のうち、被告補助参加人及び丸紅は、本件営業譲渡及び解散に当たって、保有していたNTT九州パーソナルの株式をNTT及びNTT九州ドコモに買い取ってもらっていない。しかしながら、C&Wは、保有していたNTT九州パーソナルの株式をNTTに買い取ってもらっており、被告補助参加人がC&Wとの間で、NTT九州パーソナルの損失の負担等につき取扱いを異にされる合理的理由はない。すなわち、本件基本協定上、その役割においても、被告補助参加人が、役員・従業員の派遣を予定しており、実際に取締役1名を出向させていた点を除けば、ほとんど差異はなく、右取締役にしても、NTT九州パーソナルにおける地位は、いわゆる使用人兼取締役に過ぎず、経営責任を問われるような立場になかった。また、出資比率においても、確かに、第4位の株主であるC&Wが5パーセントであるのに対し、第3位の被告補助参加人は9パーセントであるが、第2位のNTTの28パーセントとの間には明らかに開きがある。そのため、NTT九州パーソナルの代表取締役常務であった森陸も、同社の経営責任は、その中核的株主であったNTT及びNTT九州ドコモが負担すべきであるととらえており、被告補助参加人までが負担すべきであったとは考えていない。

(四) PHSには携帯電話と比べ料金が安くデータ転送速度が速いという特徴があるから、本件営業譲渡及び解散をした当時でも、PHS事業に十分将来性を見出すことができた。このようなPHS事業の将来性を念頭に置くと、C&Wが唱えた時期尚早論は、十分に合理性を有していた。

3 被告は、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、NTT、NTT九州ドコモ及びNTT九州パーソナルの方針に漫然と従い、あるいは、被告補助参加人に経営責任があるとするNTT、NTT九州ドコモ及びNTT九州パーソナルの不当な圧力に屈し、右株主平等原則違反の事実を指摘して、本件株式を買い取るよう積極的に働きかけることも、C&Wのように、右方針は時期尚早であると異議を唱えて反対することもなく、さらには、PHS事業をNTT九州ドコモに承継させるのであれば合併によるべきであると主張することもなく、かえって、NTT九州パーソナルの株主総会において、本件営業譲渡及び解散に賛成したものであって、取締役としての善管注意義務、忠実義務に違反したことは明らかである。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

被告は、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、原告が主張するような手段で、本件株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負ってはいなかったから、被告補助参加人の取締役として善管注意義務、忠実義務を懈怠してはいない。

1 本件営業譲渡及び解散に当たって、NTT九州パーソナルの株式を買い取ったのは、NTT及びNTT九州ドコモであって、NTT九州パーソナルは、NTT及びNTT九州ドコモの依頼により、その株式買取手続の代行をしたのに過ぎないのであるから、NTT九州パーソナルの株主平等原則違反が問題になることはない。

2(一) NTT、NTT九州ドコモ及びNTT九州パーソナルは、被告補助参加人から本件株式を買い取るべき義務を負っていなかった。

(二) 株式会社において、株主は、出資額に応じて有限責任を負うに過ぎない反面(商法200条1項)、出資額については責任を負わなければならない。NTT九州パーソナルは、多額の累積損失を抱えて約208億円の債務超過であり、同社の株式が実質無価値であった以上、株主である被告補助参加人が、NTT九州パーソナルに対する出資相当額を回収できなかったことは当然である。

3 被告補助参加人は、NTT九州パーソナルに資本参加するに当たり、NTT、NTT九州ドコモ、丸紅及びC&Wとの間で、本件基本協定を締結し、NTT九州パーソナルが事業を廃止しようとする場合には、同社の損失及び一切の債務について、役員の派遣状況、出資比率等を考慮し、その負担方法について誠意をもって協議し、対処する旨約していた。したがって、被告補助参加人が、NTT及びNTT九州ドコモから、NTT九州パーソナルの累積損失について、応分の負担を求められることは考えられても、これを全く負担しない上、さらに本件株式の買取りに固執し、出資相当額の回収を図ることは、法律的にもビジネス的にもあり得ないことである。被告補助参加人は、交渉の過程で、当初、NTTに対し、本件株式の買取りを求めたものの、直ちに拒否されたばかりか、逆に、NTTから、NTT九州パーソナルの累積損失について、出資割合に応じた負担を強く求められた経緯がある(最終的には、NTT九州パーソナルの債務超過額約208億円は、NTT及びNTT九州ドコモが金融機関からの貸付金等の債務を肩代わりした上債権放棄することによって処理することとなり、被告補助参加人は負担していない。)。

(被告補助参加人の主張)

原告の主張は争う。

被告は、NTT九州パーソナルの現状及び将来の損失の拡大の可能性について、NTTから説明を受けただけでなく、被告補助参加人の社内で十分事実を検討した上、これ以上損失を拡大させないためには、できる限り早く本件営業譲渡及び解散を行い、NTT九州パーソナルの事業から撤退することが合理的であると判断し、被告補助参加人の権限規程に基づいた会社としての意思決定をしたのである。被告の経営判断には、その事実認識に誤りがなく、意思決定の過程が著しく不合理であったとは到底認められないので、本件営業譲渡及び解散に賛成したことは、少なくとも取締役としての経営判断として許容される裁量の範囲内のものである。

第三  当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実に、証拠(甲八ないし一二、一四、一六、一八ないし二〇、乙一ないし七、丙一、二、証人大川博通)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  NTT並びにNTTドコモ各社(北海道、東北、中央、北陸、東海、関西、中国、四国及び九州の9社)(以下「NTTグループ」と総称する。)は、簡易型携帯電話(PHS)事業を全国展開するため、平成6年ころ、北海道、東北、中央、北陸、東海、関西、中国、四国及び九州・沖縄の各地域に、PHS事業を目的とするNTTパーソナル各9社を設立した。

このうち、九州・沖縄地域には、NTT九州パーソナルを、平成6年10月14日、エヌ・ティ・ティ九州パーソナル通信網企画株式会社の商号で(同年11月1日、現商号に変更)設立したが、その際、別紙株主一覧表記載のとおり、額面株式(1株の金額5万円)6000株のうち、NTT九州ドコモが1800株、NTTが4200株をそれぞれ引き受けて払込みをした(資本の額3億円)。そして、NTT九州パーソナルは、同年12月9日、第一種電気通信事業の許可申請を行い、平成7年1月31日、右許可を得た上、同年10月1日、営業を開始した。

なお、NTT九州パーソナルを含むNTTパーソナル各社は、定款で、同社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨規定した(甲一二、一五、二〇、乙一、七、証人大川博通)。

2  NTTパーソナル各社は、平成7年2月ころ、PHS事業の営業開始に先立ち、日本国内・国外における事業運営への積極的な支援を期待して、大手商社である被告補助参加人及び丸紅に資本参加を求め、また、PHS事業を海外に展開する際の協力等主として日本国外における事業運営への積極的な支援を期待して、英国の通信会社であるC&Wに資本参加を求め、さらに、PHS事業の営業活動を円滑に行うため、地元の支援を期待して、地元の有力企業等に出資を求めることとした(甲一二、一八、証人大川博通)。

3  NTTグループは、平成7年3月ころ、被告補助参加人、丸紅及びC&Wとの間で、NTTパーソナル各社の運営に関する基本協定を締結した(以下「各基本協定」と総称する。)。

このうち、NTT九州パーソナルについては、NTT及びNTT九州ドコモが、平成7年3月31日、被告補助参加人、丸紅及びC&Wとの間で、次のとおりの内容の本件基本協定を締結し、NTT九州パーソナルがその合意内容を承認した。なお、他のNTTパーソナル各社に関する各基本協定の内容も、これとほぼ同一であった(丙二、証人大川博通)。

<1>(資本)資本金は、25億円(発行済株式総数は5万株)とする。

<2>(出資比率)出資比率は、NTT九州ドコモが48パーセント、NTTが28パーセント(ただし、NTT九州ドコモが株式を証券取引所に上場するに当たっては、NTT九州ドコモが51パーセント、NTTが25パーセントとする。)、被告補助参加人が9パーセント、C&Wが5パーセント、丸紅が3パーセント、その他第三者資本が7パーセントとし、被告補助参加人、丸紅及びC&Wは、他の当事会社の承認がない限り、その保有するNTT九州パーソナルの株式を他者に譲渡又は担保提供し、あるいは、他の当事会社又は第三者が保有するNTT九州パーソナルの株式を譲り受けてはならないものとする。

<3>(取締役)取締役は、<2>の出資比率が維持される限り、被告補助参加人が1名(常勤)推薦できるものとし、その他の取締役は社長、副社長を含めNTT及びNTT九州ドコモが推薦できるものとする。

<4>(従業員)従業員は、被告補助参加人が1名派遣し、NTT及びNTT九州ドコモが必要に応じ派遣するほか、NTT九州パーソナルが新たに雇用することができるものとする。

<5>(当事会社の役割)NTTは、役員・従業員の派遣、必要な資産の譲渡、NTT九州パーソナルの立ち上げ期において必要な各種システムの貸与、同社の販売活動における代理店業務の遂行、同社のサービス提供に必要な知的所有権の使用許諾その他同社の事業運営上必要な項目の全般にわたり、積極的に支援するものとし、NTT九州ドコモは、役員・従業員の派遣、NTT九州パーソナルのサービス提供に必要な知的所有権の使用許諾、同社の販売活動における代理店業務の遂行その他同社の事業運営上必要な項目の全般にわたり、積極的に支援するものとし、被告補助参加人は、役員・従業員の派遣、代理店業務の遂行をはじめとしたNTT九州パーソナルの販売活動への積極的協力、基地局設置における支援等同社の事業運営を積極的に支援するとともに、同社の日本国外における事業活動に積極的に協力するものとし、丸紅は、代理店業務の遂行をはじめとしたNTT九州パーソナルの販売活動への積極的協力、基地局設置における支援等同社の事業運営を積極的に支援するとともに、同社の日本国外における事業活動に積極的に協力するものとし、C&Wは、事業活動において得たノウハウ及び情報の提供、NTT九州パーソナルの販売活動への積極的な協力等同社の事業運営を積極的に支援するとともに、同社の日本国外における事業活動に積極的に協力するものとする。

<6>(資金調達への協力)NTT九州パーソナルの所要資金は、原則として同社が自己調達するが、万一、同社が所要資金の一部又は全部を調達できないときは、当事会社は具体的方法をその都度協議の上、原則として、役員を派遣している当事会社は当事会社以外の第三者の出資分を除いたそのときの相対的持分により、役員を派遣していない当事会社は出資比率に応じ、それぞれ同社の資金調達に協力するものとする。

<7>(損失・負債の負担)NTT九州パーソナルが事業を廃止しようとする場合、当事会社は、役員の派遣状況、出資比率等を考慮し、同社の損失及び一切の債務の負担方法について誠意をもって協議し、対処するものとする。

4  NTTグループ、被告補助参加人、丸紅及びC&Wは、NTTパーソナル各社に対し、各基本協定に基づき、出資、取締役の派遣等を行った。その結果、NTTパーソナル各社全体では、NTTグループの出資比率は約76パーセント(北海道地域のNTTパーソナルでは75パーセント、その他のNTTパーソナル各社では76パーセント)、派遣した取締役は合計56名(常勤取締役27名、非常勤取締役29名)、被告補助参加人の出資比率は5.6パーセント、派遣した取締役は合計5名(常勤取締役2名、非常勤取締役3名)、丸紅の出資比率は5.4パーセント、派遣した取締役は合計5名(常勤取締役2名、非常勤取締役3名)、C&Wの出資比率は5パーセント、派遣した取締役は1名(非常勤取締役)であった(証人大川博通)。

5  NTT九州パーソナルは、別紙株主一覧表記載のとおり、平成7年5月、額面株式1万株(1株の金額5万円)を発行し、NTT九州ドコモが3000株、NTTが7000株、それぞれ引き受けて払込みをし、資本の額が8億円に増加した。ついで、NTT九州パーソナルは、同年6月、額面株式3万4000株(1株の金額5万円)を発行し、本件基本協定に基づき、NTT九州ドコモが1万9200株、NTTが2800株、被告補助参加人が4500株、C&Wが2500株、丸紅が1500株、それぞれ引き受けて払込みをしたほか、地元の有力企業等32社がそれぞれ150株又は100株(合計3500株)を引き受けて払込みをし、資本の額が25億円に増加した。その結果、NTT九州パーソナルの各株主の持株数(出資比率)は、NTT九州ドコモが2万4000株(48パーセント)、NTTが1万4000株(28パーセント)(両社合計で3万8000株[76パーセント])、被告補助参加人が4500株(9パーセント)、C&Wが2500株(5パーセント)、丸紅が1500株(3パーセント)、その他の企業32社が合計3500株(合計7パーセント)となった。また、NTT九州パーソナルには、本件基本協定に基づいて、NTT九州ドコモ及びNTTから常勤取締役3名及び非常勤取締役2名の合計5名が、また、被告補助参加人から常勤取締役1名(和田修明、販売推進担当)がそれぞれ派遣され、さらに、被告補助参加人から従業員が1名派遣された。なお、丸紅及びC&Wは、NTT九州パーソナルに対し取締役を派遣していない(甲九、一二、一八、丙一、二、証人大川博通)。

6  NTT九州パーソナルが、2ないし5のとおり第三者割当増資を行った際の事業計画は次のとおりであった。すなわち、契約見込数は、第2期(平成7年4月1日から平成8年3月31日まで)は3万7000回線であり、その後毎年順調に増加して、第9期(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)には57万6000回線となる。収支計画は、右契約見込数を前提として、第7期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)には単年度黒字になり、第10期(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)には累積損失が解消する。NTT九州パーソナルは、当時、PHSの端末機器が、小型軽量であるだけでなく、毎月の基本料、利用料金が割安であること、連続通話時間や連続待ち受け時間が長いことなどの利点があり、携帯電話に対抗して、普及が可能であると想定していたのである。

また、NTTパーソナル各社全体では、第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)は当期損失が約350億円、累積損失が約1400億円にとどまる見込みであった(甲一二、一八、証人大川博通)。

7  ところが、携帯電話の急速な技術革新による端末機器の小型軽量化及び携帯電話各社の利用料金の値下げ等によってPHSの利点が目立たなくなったことなどのためか、平成9年夏ころより、NTTパーソナル各社におけるPHSの契約数は、全国的に、減少し始めた。

NTT九州パーソナルでも、PHSの契約数が、第2期(平成7年4月1日から平成8年3月31日まで)は7万回線に達し、第3期(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで)には21万8000回線と順調に増加したものの、平成9年8月から一転して減少に転じ、第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)は22万5000回線にとどまった。

そして、NTT九州パーソナルの営業成績及び財産の状況は、PHSの契約数の減少に伴い、次のとおり推移した。すなわち、第1期(平成6年10月14日から平成7年3月31日まで)は、開業準備期間であったため、営業収益はなく、当期損失が7687万1000円、純資産が2億2312万8000円であった(千円未満切捨て。以下同様。)。営業を開始した第2期(平成7年4月1日から平成8年3月31日まで)は、営業収益が40億3621万1000円、当期損失が46億2913万6000円、純資産が22億0600万7000円の債務超過であり、第3期(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで)は、営業収益が161億5047万9000円、当期損失が76億1882万8000円、純資産が98億2483万6000円の債務超過であった。そして、第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)は、営業収益は223億3263万円と前期に比べ増加したものの、解約の増加によるPHSの契約数の伸び悩みやサービス範囲拡大に伴う経費の増大により、当期損失が73億4111万7000円(次期繰越損失は196億6595万3000円)となり、純資産は171億6595万3000円の債務超過となった。

NTTパーソナル各社全体では、第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)の当期損失が900億円を超え、累積損失も約2400億円に達する見込みであるなど(累積損失は、現実には約2300億円となった。)、第三者割当増資を行った際の事業計画を大幅に下回る業績となった。そして、PHS契約数の減少傾向は一時的なものではなく、将来的にも改善が見込めず、このまま営業を続けると第5期(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)には累積損失が3300億円にまで拡大すると予測され(累積損失は、清算時には約3200億円となった。)、右事業計画を達成することは困難な状況となった。

なお、PHS事業は、NTTグループのほかに、DDIグループ及びアステル・グループも、全国展開しており、九州・沖縄地域では、NTT九州パーソナルのほかに、DDI九州ポケット電話株式会社及び株式会社アステル九州がPHS事業を営んでいたが、PHSの契約数の減少傾向は、NTTパーソナル各社に限ったことではなく、DDIポケット各社は、PHS事業を単独で行う方針は維持したものの右各社を合併し、アステル各社は、PHS事業の継続を断念して、他の地域通信会社への営業全部又は一部の譲渡を行っている(甲八、一二、一八)。

8  NTTグループは、平成9年夏ころからの、PHSの契約数の減少傾向を受けて、NTTパーソナル各社におけるPHS事業の見直しを始めた。そして、第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)のNTTパーソナル各社全体での業績が、第三者割当増資を行った際の事業計画を大幅に下回る見込みとなり、しかも、将来的にも改善が見込めず、このまま営業を続けると第5期(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)には累積損失が3300億円にまで拡大すると予測され、右事業計画を達成することが困難な状況となったことを踏まえ、NTTパーソナル各社がPHS事業を継続していくことは困難であり、同じ移動体通信である携帯電話を取り扱っていたNTTドコモ各社に右事業を行わせるとの方針を決めた。そして、PHS事業をNTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に引き継ぐ方法としては、NTTドコモ各社がNTTパーソナル各社を合併する方法と、NTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に営業譲渡する方法とが考えられるが、前者の方法(合併)によるためには、NTTパーソナル各社の債務超過状態を解消する必要があり、そのための方法として考えられる、<1>株主に追加出資を求めた上で減資をする、<2>借入金について金融機関に債権放棄を求める、<3>右借入金をNTTグループが引き受けた上で債権放棄をする、という三つの方法については、それぞれ難点があり採用できないことから、NTTグループは、前者の方法(合併)ではなく後者の方法(営業譲渡)によることとした。すなわち、<1>債務超過状態を解消するためには出資額の10倍程度の追加出資及び減資が必要であり株主の理解が得られないであろうし、<2>金融機関に債権放棄を求めるのはNTTグループ全体の信用問題となるし、<3>NTTグループが金融機関からの借入金を肩代りした上で債権放棄をするとしても、合併では債権放棄の損金処理ができず、同グループの経営陣が任務懈怠責任を問われかねなかったからである(甲一二、一八、乙七、証人大川博通)。

9  NTTグループは、平成10年2月12日、被告補助参加人に対して、右方針を伝えるとともに、各基本協定に基づき、NTTパーソナル各社の損失及び一切の債務の負担方法についての協議を求めた。

被告補助参加人は、NTTグループから説明を受けるだけでなく、社内でも調査検討を行い、NTTパーソナル各社全体の第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)の業績見込みが資本参加した時点での事業計画を大幅に下回るとともに、このまま営業を続けると将来的に累積損失が一層拡大すると予測され、右事業計画を達成することは困難な事態となったこと、平成10年2月ころには、金融機関から、NTTパーソナル各社に対する新規融資については、株主の保証を求めたいとの意向が示されており、このままNTTパーソナル各社でPHS事業を継続すると、被告補助参加人は、各基本協定に基づき、NTTパーソナル各社の資金調達について多大な財政負担を強いられるおそれがあったこと等の諸点を考慮し、NTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に営業全部を譲渡した上、NTTパーソナル各社を解散するというNTTグループの方針に賛成することとした。

被告補助参加人は、NTTグループとの協議の中で、NTTグループに対し、保有していた、本件株式を含むNTTパーソナル各社の株式を額面価額で買い取るように求めたが、NTTグループから、逆に、NTTパーソナル各社の債務の分担を求められたことから、被告補助参加人は、従来から様々な取引を通じて培ってきたNTTグループとの良好な取引関係を将来的にも維持する必要性をも勘案して右要求を断念し、平成10年5月19日、被告補助参加人とNTTグループとの間で、被告補助参加人は、NTTパーソナル各社の株式の買取りをNTTグループに求めず、一方、NTTグループは、NTTパーソナル各社の金融機関からの借入金等の債務を肩代わりした上、債権放棄をして損金処理をすることとし、被告補助参加人には負担を求めない旨の合意が成立した。

10  NTTグループは、そのころ、丸紅との間でも同様の協議を行い、丸紅も、NTTグループの方針に賛成し、NTTグループに対し、保有していたNTTパーソナル各社の株式の買取りは求めず、NTTグループも、NTTパーソナル各社の金融機関からの借入金等の債務について丸紅には負担を求めないこととなった。

また、NTTグループは、そのころ、C&Wとの間においても同様の協議を行い、C&Wは、当初、NTTグループの方針は時期尚早であるとして異議を唱えたが、最終的には右方針に賛成し、一方、NTTグループは、NTTパーソナル各社の金融機関からの借入金等の債務についてC&Wには負担を求めず、C&Wの保有していたNTTパーソナル各社の株式を額面価額で買い取ることとなった。

さらに、NTTグループは、その他の地元企業等が保有していたNTTパーソナル各社の株式については、NTTグループの今後の事業展開への影響を考慮し、額面価額で買い取ることとした(甲一二、乙七、証人大川博通)。

11  NTTパーソナル各社は、NTTグループの方針決定を受け、平成10年5月、その営業全部をNTTドコモ各社に譲渡して解散するという方針を正式に決定した。

このうち、NTT九州パーソナルは、NTT及びNTT九州ドコモの依頼を受け、同年6月以降、株主のうち地元企業に対して、営業譲渡及び解散というNTTグループの方針を説明し、同年9月以降、NTT又はNTT九州ドコモによるNTT九州パーソナルの株式の額面価額での買取りの手続を代行した(甲一四、一八)(なお、原告は、NTT九州パーソナルの代表取締役常務であった森陸が、NTT又はNTT九州ドコモがNTT九州パーソナルの株式を額面価額で買い取る際、右株式買取りの対象から被告補助参加人を除外することを決定したのはNTT九州パーソナルである旨述べていること、また、NTT九州パーソナルの株式の譲渡には、同社の取締役会の承認が必要であったこと[商法204条1項但書]などを理由として、NTT九州パーソナルは、株式買取りの申出先を選別していたのであり、単に、株式買取手続の代行をしたにとどまるものではないと主張する。しかしながら、前記認定のとおり、NTT九州パーソナルの株式を買い取るのはNTT又はNTT九州ドコモであってNTT九州パーソナルではなく、NTT及びNTT九州ドコモが被告補助参加人から本件株式を買い取らなかったのは、NTT九州パーソナルが除外したためではなく、NTT及びNTT九州ドコモと被告補助参加人との合意によるのである。しかも、NTT九州パーソナルの株式に譲渡制限があるため、NTT九州パーソナルは、同社の株式をNTT及びNTT九州ドコモが買い取ることについて取締役会で承認しているけれども、そのことから直ちに、NTT九州パーソナルが株式買取りの申出先を選別していたものと推認することはできない。したがって、原告の主張を採用することはできない)。

12  NTTグループは、NTTパーソナル各社の株式について、平成10年11月ころ、被告補助参加人及び丸紅を除く殆どの株主から、その保有株式を、額面価額で買い取った。

このうち、NTT九州パーソナルの株式については、別紙株主一覧表記載のとおり、NTT又はNTT九州ドコモが、平成10年11月5日ころ、本件基本協定の当事会社のうち被告補助参加人及び丸紅、並びに、NTTグループの買取申込みを拒んだ岩崎産業株式会社を除く株主の保有する株式を、額面価額で買い取った。そして、NTT九州パーソナルの定款には、同社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨規定されていたことから、NTT九州パーソナルは、右買取りに先立ち、平成10年10月13日開催の第39回取締役会において、右譲渡を承認する旨の決議を行った。また、本件基本協定ではC&Wの保有株式の譲渡には他の当事会社の承認を要する旨規定されていることから、NTT、NTT九州ドコモ、被告補助参加人及び丸紅は、右買取りを承認した(甲八、一〇ないし一二、一四、一六、一八、一九、乙六、七、丙一、二、証人大川博通)。

13  NTT九州パーソナルは、平成10年6月22日開催の第4回定時株主総会において、その営業全部をNTT九州ドコモに譲渡する旨決議し、同年12月1日開催の臨時株主総会において、解散する旨決議し、同月9日右解散の登記をした。被告補助参加人は、右各株主総会に株主として出席し、右各決議に賛成した。

NTT九州パーソナルは、清算手続を行い、平成11年3月19日清算を結了し、同日その旨登記した。右清算の結果、株主に分配すべき残余財産は存在せず、被告補助参加人は、NTT九州パーソナルに対する出資相当額(2億2500万円)を回収することができなかった。もっとも、NTT九州パーソナルの債務超過額約208億円については、NTT及びNTT九州ドコモがNTT九州パーソナルの金融機関等からの借入金等の債務を肩代わりして引き受けた上債権放棄し、損金処理をすることによって処理したから、被告補助参加人は、負担しなかった(甲一二、乙一)。

二  以上認定の事実関係を前提として、争点について判断する。

1  取締役は、法令、定款の定め及び株主総会の決議を遵守するのみでは十分でなく、営利を目的とする会社の経営を委ねられた専門家として、長期的な視点に立って全株主にとって最も利益となるように職務を遂行すべき善管注意義務及び忠実義務を負っている(商法254条3項、民法644条、商法254条ノ3)。もっとも、事業を営み利益を上げるためには、会社の状況、会社を取り巻く市場及び業界の状況、国内・国外の情勢等、時々刻々変化するとともに相互に影響し合いかつ流動的な考慮要素を的確に把握して総合的に評価し、短期的・長期的な将来予測を行った上、時機を失することなく経営判断を積み重ねていかなければならないことから、専門家である取締役に会社の経営が委ねられていることを踏まえると、取締役がその職務を遂行するに当たっては、広い裁量が与えられているものと言わなければならない。したがって、取締役に対し、過去の経営上の措置が善管注意義務又は忠実義務に違背するとしてその責任を追及するためには、その経営上の措置を執った時点において、取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか、あるいは、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったことを要するものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、被告は、被告補助参加人の取締役として、NTTグループの本件営業譲渡及び解散を行うとの方針に賛成するに当たり、NTTパーソナル各社全体の第4期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)の業績見込みが資本参加した時点での事業計画を大幅に下回るとともに、このまま営業を続けると将来的に累積損失が一層拡大すると予測され、右事業計画を達成することは困難な事態となったこと、平成10年2月ころには、金融機関から、NTTパーソナル各社に対する新規融資については、株主の保証を求めたいとの意向が示されており、このままNTTパーソナル各社でPHS事業を継続すると、被告補助参加人は、各基本協定に基づき、NTTパーソナル各社の資金調達について多大な財政負担を強いられるおそれがあったこと、PHS事業をNTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に引き継がせる方法のうち、NTTドコモ各社がNTTパーソナル各社を合併する方法は、その前提としてNTTパーソナル各社の債務超過状態を解消する必要があるところ、そのための適切な方法が見当たらず、経済的合理性がなく現実的でなかったことから、NTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に営業譲渡する方法によらざるを得なかったことを踏まえ、できる限り早く営業譲渡することによりPHS事業をNTTパーソナル各社からNTTドコモ各社に引き継がせ、莫大な債務超過の状況にあるNTTパーソナル各社の事業から撤退することが適切であると判断したものである。しかも、被告は、右判断をするに当たり、NTTグループから説明を受けるだけでなく、被告補助参加人の社内でも調査検討を行っているのであるから、被告の右判断には、その時点において、前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったとは言えないばかりか、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったとも言えず、取締役に委ねられた裁量の範囲を逸脱するものではない。

3  ところで、原告は、本件営業譲渡及び解散に当たり、被告には、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、実質的に無価値であった本件株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務があったにもかかわらず、これを怠ったため、被告補助参加人は、本件株式の額面相当額2億2500万円の損害を受けた旨主張する。

4  まず、原告は、NTT九州パーソナルの株式買取りの申出先を選別したのはNTT九州パーソナルであり、同社は右申出先から被告補助参加人を意図的に除外したのであるから、NTT九州パーソナルの右行為は、明らかに株主平等原則に違反している、被告は、この株主平等原則違反の事実を指摘して、NTT九州パーソナルの株式を買い取るよう積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っていたのに、これを怠ったと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、NTT九州パーソナルの株式を買い取ったのはNTT及びNTT九州ドコモであり、右買取りの申出先を選別したのもNTT及びNTT九州ドコモであって、NTT九州パーソナルは買取手続の代行をしたに過ぎないから、NTT九州パーソナルが株主平等原則に違反する行為をしたものと評価することはできない。原告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。

5  次に、原告は、本件営業譲渡及び解散は、NTT九州パーソナルの大株主であったNTT及びNTT九州ドコモが、NTT九州パーソナルに対して有していた多額の貸付金を損金処理しようと、自らの利益を図るために、同社に行わせたものである、本件営業譲渡及び解散に当たって、被告補助参加人等を除くNTT九州パーソナルの大部分の株主から、その保有株式を額面価額で買い取ったのは、NTT九州パーソナルがPHS事業から撤退し、本件営業譲渡及び解散を行うという方針の実行を急いだNTT及びNTT九州ドコモが、株主に対するいわば口封じのために行ったものである、NTTがC&Wの保有するNTT九州パーソナルの株式を買い取ったのも、C&Wが、NTT及びNTT九州ドコモの右方針は時期尚早であると異議を唱えたことから、そのような意見がNTT九州パーソナルの他の少数株主に飛び火して右方針の実行が遅れることを恐れ、いわばC&Wの口封じのために行ったものである、被告補助参加人がC&Wとの間でNTT九州パーソナルの損失の負担等の取扱いを異にされる合理的理由はない(したがって、被告補助参加人も、C&Wのように、右方針は時期尚早であると異議を唱えれば、本件株式をNTT又はNTT九州ドコモに買い取ってもらえた筈である。)、被告は、右方針は時期尚早であると異議を唱えて、本件株式を額面価額で買い取るよう積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っていたのに、これを怠ったと主張する。

確かに、前記認定のとおり、NTT及びNTT九州ドコモは、NTT九州パーソナルの株式について、被告補助参加人、丸紅及び岩崎産業株式会社を除く株主からは、その保有株式を額面価額で買い取っている。

しかしながら、前記認定の事実関係によれば、被告補助参加人は、NTT、NTT九州ドコモ及びNTT九州パーソナルに対して、本件株式の買取りを請求すべき法的権利を有していたわけではない。NTT及びNTT九州ドコモがC&Wを除くその余の株主から株式を買い取ったのは、今後のNTTグループの事業展開への影響を考慮し、自主的に判断して行ったものである。また、NTT及びNTT九州ドコモは、NTT九州パーソナルの発行済株式総数の76パーセントを保有していたのであるから、被告補助参加人が本件営業譲渡及び解散の各決議に反対しても、各決議の可決を阻止することはできなかった(商法245条1項1号、405条、343条参照)。そして、被告補助参加人が本件営業譲渡に反対して、株式買取請求権を行使したとしても、NTT九州パーソナルは多額の債務超過の状態にあったのであるから、出資相当額を回収することができたとは考え難いところである。しかも、被告補助参加人は、NTT、NTTドコモ各社等との間に締結した各基本協定において、NTTパーソナル各社が事業を廃止しようとする場合には、同社の損失及び一切の債務の負担方法について、役員の派遣状況、出資比率等を考慮し、誠意をもって協議し、対処する旨の義務を負っていたのであり、被告補助参加人が、NTTパーソナル各社の処理方法についてNTTグループと協議する中で、NTTグループに対し、本件株式を含むNTTパーソナル各社の株式を額面価額で買い取るように求めた際、NTTグループから、逆に、NTTパーソナル各社の債務の分担を求められている。被告は、以上の諸点に加え、従来から様々な取引を通じて培ってきたNTTグループとの良好な取引関係を維持する必要性をも勘案した上、実質的に無価値であった本件株式を含むNTTパーソナル各社の株式を額面価額で買い取るようにとの要求を断念したものである。

なお、NTTが、本件基本協定の当事会社の一つであったC&Wからその保有株式を買い取った経緯及び理由は、当法廷に提出された証拠上明確ではないが、NTTとC&Wとの間で協議した上での合意の結果であり、被告補助参加人とC&Wとの間には、出資比率(被告補助参加人が9パーセントであるのに対し、C&Wは5パーセントであった。)、取締役及び従業員の派遣状況(被告補助参加人が販売促進担当の常勤取締役1名及び従業員1名を派遣していたのに対し、C&Wが取締役・従業員ともに派遣していなかった。)、役割(被告補助参加人が大手商社として日本国内・国外における事業運営への積極的な支援が期待されていたのに対し、C&Wは英国の通信会社としてPHS事業を海外に展開する際の協力等主として日本国外における事業運営への積極的な支援を期待されていた。)等の諸点で立場の違いがあったのであるから、被告補助参加人が、いわば交渉術として(すなわち、既に判示したとおりNTTグループの方針が適切であると判断していたにもかかわらず、実質的に無価値の本件株式を額面価額で買い取らせるためにあえて)、NTTグループの方針は時期尚早であると異議を唱え反対し続けたとしても、また、合併によるべきであると主張し続けたとしても、本件株式を額面価額で買い取ってもらえたものと推認することはできない。

したがって、被告が、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対する、実質的に無価値であった本件株式を額面価額で買い取るようにとの要求を断念した判断は、その前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りは認められず、また、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものといえないから、取締役としての裁量の範囲を逸脱するものでないと解するのが相当である。

6  以上の次第で、被告が、被告補助参加人の代表取締役兼取締役として、NTT、NTT九州ドコモ又はNTT九州パーソナルに対し、原告が主張するような方法で、実質的に無価値であった本件株式を額面価額で買い取るように積極的に働きかけるべき善管注意義務、忠実義務を負っていたものとは言えないし、被告が右善管注意義務及び忠実義務を怠ったため、被告補助参加人が、本件株式の額面相当額2億2500万円の損害を受けたともいうことはできない。

第四  結論

よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却する。

(裁判長裁判官 池田光宏 裁判官 桑原直子 裁判官 松田道別)

別紙

<省略>

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